プロダクションノート

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[映画化の道]

2010年、宅間孝行率いる人気劇団〈東京セレソンデラックス〉で「くちづけ」上演。24,000人もの観客が号泣。その中に、堤幸彦監督、青木英美プロデューサーもいた。
後に青木が「くちづけ」映画化を企画し、堤に監督を依頼した時、実際に作品を見ていた監督は快諾した。

[本物らしさ]

2012年7月、東映東京撮影所にてクランクイン。
スタジオには、『くちづけ』の舞台となる二階建てのひまわり荘が、まるで本物の家のように作り込まれた。映画の中では、春夏秋冬……と季節が変わっていくが、照明によって四季折々の太陽光が繊細に再現されている。
事前の準備として、キャスト、スタッフが、埼玉県児玉郡「ケアホーム上里」と本庄市の「はなわの杜」と東京「さやま園」3軒のグループホームへ取材に赴いている。
映画初主演となる貫地谷しほりは当初マコの役作りを模索していたが、ホームの見学によって、部外者から見た一面的なイメージではなく、実に多様な人たちがいることを体感して、自由にやろうと決意を固める。

[チームワークの良さ]

今回の撮影は2週間とタイト。その短い時間を漏れなく使おうと考えた堤は、演劇的なやり方を選択した。通常、映画だと、俳優は自分の出番時だけ現場に来るものだが、『くちづけ』では、出番がなくても出演者は自然と撮影現場に集まることが多く、待ち時間には皆でよく語らっていた。
さらに、堤は毎朝、スタッフ、キャストたちとラジオ体操を行っていた。これによって、結束が強まり、ひまわり荘で暮らす人たちの関係性が自然に深まって見えてくる。ちなみに、ラジオ体操は近年、堤の現場では恒例になっている朝の行事。
この作品の原作者であり脚本家である宅間孝行は、うーやん役でも出演している。作品世界を最もよく知っている宅間は、オフの間でも現場のムードメーカーとしてみんなに目を配っていた。
舞台版から出演している尾畑美依奈は、ひまわり荘の住人の役ではないにも関わらず、現場に日参し笑いを振りまいた。
そんな気遣いによって、ひまわり荘の住人たちの場面は、心底ほのぼのユーモラス。仙波役嶋田久作が撮影中に一度、台詞を忘れてしまい「(ひまわり荘のみんなが)楽しそうで見とれてしまった」と恐縮する一幕も。
クランクアップ時には、監督が俳優、スタッフに感謝状を配るというあたたかい現場になった。

[舞台版と映画版のちがい]

堤は『くちづけ 』を映画化するに当たり、できるだけ舞台に近く撮ろうと考えた。舞台版が、ひまわり荘の談話室のワンシチュエーションものだったことに合わせて、映画も、その談話室を中心にして、極力外は描いていない。談話室につながる、庭、玄関、2階、キッチン、洗面所、事務室などのセットは作っておいて、そこまではアクトスペースを広げた。
ところどころ実景が出てくることで、描かれている世界が、観客と地続きの現実であることが強調される。
ひまわり荘は埼玉にある設定だが、その外側は、ロケハンの末、静岡県掛川市にある建物をモデルとした。
嶋田久作演じる仙波は、映画版のみに登場するオリジナルキャラクター。宅間は「もし舞台の再演があったら仙波さんも出したい」と言う。

[5台のカメラの活躍]

常にカメラが5台あり、4〜5シーンを一気に撮る。カメラはキャノンC300が4台と7Dが1台。それぞれに名前があって、アンソニー、ブルータス、チャーリー、デービッド、エコノミーとなっている(命名:堤監督)。
最初にリハーサルを入念にやってから本番。俳優は、何シーンもの台詞や動線を覚えないといけないが、最初から最後までノンストップの舞台経験の多い俳優たちだとスムーズに進行できる。
この現場では、カメラマンの連携も課題。通常の堤作品は、段取りの確認から本番までの準備時間が比較的短いほうだが、今回は準備に時間をかけていた。
段取りの後にカメラマンが、俳優たちの動きに合わせて各々のカメラ位置を相談して決める。例えば、玄関→談話室→2階と俳優達が素早く動いていく中、見きれることもなく見事な中継が可能になる。ライブ中継もやってきた堤ならではの、スタッフワークである。
天井も壁もあってほぼ本物の家に近いセットの中で、5人のカメラマンとその助手(カメラのコードなどをさばく)2人が、ちょっとしたデッドスペースに身を隠して撮影する様は、ライブ感に満ちていた。
5台のカメラが撮った映像は、あっという間に、堤現場でおなじみの現場編集で簡易に編集(仮の音楽付き)されて、俳優達が確認することができる。

[グループホームの方たち]

事前に取材させてもらったホームの方達が、撮影現場を見学に訪れた。トウモロコシを差し入れしてくれて、キャスト、スタッフは大喜び。ホームのひとりの少女がプレゼントした絵を、監督は目の前に飾った。

[堤演出]

『くちづけ』はホームの住人たちの明るさ、ユーモラスさを中心に描いた作品だが、堤監督は随所にささやかなリアリティーを足している。例えば、袴田がフレームアウトする時、「枝豆といちじく、むしってこよう」と言わせたり、愛情いっぽんが玄関先で夏目に相談の電話をする時、傍らに置いてある傘の骨を1本外したり、生活者らしさを作りだしていた。電話する場所も台本では談話室内だったが、土砂降りの玄関に変更している。

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